マリッジリング製作
私事で恐縮なのですが、4月20日に結婚式を行います。
そのためのマリッジリングを製作しようと思います。
デザインはこんな感じです。
材質は18金イエローゴールドです。
製作工法について考察します。
工法は2種類に分けられます。ロストワックス法(鋳造)と、地金製作です。
ロストワックス法は労力をかけずに製作することができますが、ピンホール欠陥が発生しやすく、仕上げが困難にる場合があります。
私の場合は、余程複雑な形状でない限り、ロストワックス法は選択しません。
今回のデザインは、地金からでも製作が可能であると判断しました。
よって地金から製作したいと思います。
最初に地金を製作します。
18金は、『金』、『銀』、『銅』の3種類の金属が混ざっています。
いわゆる3元合金です。
メインはもちろん金です。純金の含有量が75%以上の地金を18金と呼びます。
残りの25%以下は銀と銅です。この銀と銅のことを割金(わりがね)と呼びます。
まず、純銀と銅を4:6の割合で用意します。
これをバーナーで溶かすと割金が出来ます。
純銀と銅の比率を変えたり、他の金属を加えることによって、様々な色味や機械的性質を持った18金になります。
銅の割合が増えると、硬く赤い18金になります。
銀の割合が増えると、柔らかく、薄い黄色の18金になります。
できた割金と純金の比率を1:3の割合で用意します。
これらをバーナーで溶かし、あけ型に流し込めば・・・
18金インゴットの出来上がりです。
出来上がったインゴットをローラーで3mmの角棒に伸ばします。
この工程では注意が必要です。
インゴットの状態は機械的性質が非常に悪く、強い引っ張りや、曲げ応力を加えると割れが発生してしまいます。
銅の含有量が高いイエローゴールドやレッドゴールドは、元々硬い性質をもっているので特に割れやすいです。
脆くて割れやすい性質は、鍛造することにより改善されます。こまめに鍛造と焼鈍しを繰り返し、その後様子を見ながら慎重にローラー作業を行います。
作業中に割れを発見したら、直ちに削り取ります。
インゴット時の結晶粒度が粗い為に脆いのではないかと考えています。
次に角棒を曲げてリング状にします。
このときのリングサイズは、目標サイズより6番ダウンにします。
リングの継ぎ目はロー付けが一般的ですが、後工程の関係上”とも付け”にて製作します。
”とも付け”のやり方は職人によると思いますが、ここでは私のやり方を紹介します。
合わせ面にX開先の加工を施します。
細い腕の場合はV開先でも構いません。
まず、内側の開先面に、地金の端材を乗せます。
余盛り部を考慮し、大きめの端材にします。
フラックスは使用しません。
この状態で端材を溶かし込みます。
火炎は酸素バーナーがベストですが、ブローパイプでも出来ます。
このようになります。
火炎を当てるときの注意点は、リング側の地金を溶かしすぎないようにすることです。
溶けた端材の熱を利用しながら、リング側を溶かし込むといった具合です。
十分に酸洗いします。
外側の開先面を整え、先ほどと同じ手順にてとも付けをします。
余盛りが側面に垂れてしまいましたが、溶け込みは十分だと思います。
余盛りの部分を金槌で叩きます。
とも付けはロー目が出ないというメリットがありますが、ピンホールや融合不良といった内部欠陥が発生しやすいというデメリットがあります。
融合不良が表面に出てきた場合はとも付けをやり直さなければなりません。ピンホールは仕上げ時に厄介な欠陥となるので、ここで叩き潰しておきます。
ヤスリで形を整えたらとも付け作業は完了です。
アークやレーザーといった高性能な溶接機があれば、あっという間にできてしまいます。
ここからは焼鈍しをしながら、ひたすら叩いてデザインの形に成型します。
同時に目標のサイズまで引き伸ばします。
リングの継ぎ目がロー付けだったら、この工程で破断してしまいます。
目標サイズより0.5番ダウンでこの工程は終了です。
形も整ってきました。
ここから仕上げに入ります。
荒目のヤスリで形を整え、細目までヤスリ目を細かくします。
同時に指なじみも加工し、芯金と木槌で真円になるよう目標サイズに合わせていきます。
キサゲでヤスリ目を削り取ります。
超硬ヘラで表面をならします。
バフ掛けして完成です。
ピカピカになりました。
地金製作で良かったと思う瞬間です。
ロストワックス法で製作した場合、材料にピンホールが点在していることがよくあります。すると、バフ掛けの時に引っかいたような筋が現れ、綺麗になりません。
最後の最後で欠陥が表面化するのは気持ちの良いものではありません。
同じ手順でペアも製作します
製作手順は以上ですが、地金管理についても報告しておきます。
(A)インゴットの重量 15.36g
(B)完成品の重量(メンズ) 5.97g
(レディース) 5.55g
(C)回収した粉の重量 3.57g
(D)端材の重量 0g
以上から損失した地金の重量を計算します。
A-(B+C+D)=損失地金
15.36-(5.97+5.55+3.57+0)=0.27
今回の製作で0.27gの18金を失いました。
地金を削ったり磨いたりすると、どうしても回収できない地金が発生してしまいます。
この損失を業界では”ヘリ”といいます。
完成品重量との比率で計算すると
0.27÷(5.97+5.55)=0.023
この比率が0.1未満であれば問題ありません。
今回のブログは長文となりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございます。
今後も製作内容をどんどん公開してまいりますので、宜しくお願いします。